中学生の言葉の中に

In 私ノ茶乃湯考 by user

先日のお稽古の日のことです。
その日は子どもたち三人が稽古に来る予定でしたが、大雪のため二家族からお休みの連絡がありました。
厳しい天候の中、その日は中学生の子が一人だけ稽古に来てくれました。

その子は、六年ほど稽古に通っています。
多くを語る子ではありませんが、いつも黙々と稽古に向き合い、その姿からこちらが教えられることも少なくありません。

志竜さんと三人で稽古を終え、しばらく話をしていた折、その子がふと相談をしてくれました。

「自分の家には仏壇はないのですが、祖父母の家に行ったときに、お経をあげたいと思っています。どうしたらよいでしょうか。」

思いがけない言葉でした。
理由を尋ねると、利休忌などの折に、私が読経している姿を見て、自分もあげてみたいと思ったのだと話してくれました。

現代は、信心が薄れている時代だと言われます。
そのような中で、中学生の口から自然に「読経をしたい」という言葉が出てきたことに、驚きと同時に、言葉に尽くしがたい有難さを覚えました。

私は思わず、その子の中に確かに息づいている仏心に、静かに合掌していました。

今日という日はこの子のためにあるのだと思わされたのでした。

さて、私たちの人生は、決して当たり前の連続ではありません。
思うようにならないことの方が多く、苦しみから逃げ出したくなる日もあります。
それでも、今日という一日を生き、生き抜いていかなければなりません。

この一瞬にも、命は確かに働いています。
命は、明日へ向かって躍動しています。
その事実そのものに、意味のないものは一つもありません。

高野山では、「生かせいのち」という言葉をよく耳にします。
仏さまからいただいた命を、人のため、世のために生かすという教えです。
その受け止め方は人それぞれでしょう。
ただ、今ある命を生かし、生かされながら歩んでいるということを、忘れずにいたいと思います。

先日、胸を締めつけられるような知らせに触れました。
多くの子どもたちが、深い苦しみの中で命を手放している現実です。
一人ひとりがどれほどの思いを抱えていたのかと想うと、言葉を失います。
残されたご家族の悲しみを思えば、なおさらです。

ただただ、子どもたちが心身ともに健やかに、笑顔を失わずに生きていけることを祈るばかりです。
そして、少しでも苦しみの淵へと落ちていかないよう、私たち大人が交わり続けることの大切さを、あらためて思います。

弘法大師空海さまは、次のようなお言葉を残しておられます。

四大の病は薬針の治する所、一心の患いは深法よく癒す

身体の病は薬や針によって治されますが、心の苦しみは、仏の教えによってこそ癒されるという意味です。

一服のお茶をいただく、ほんのひとときが、誰かの心を癒し、和らげ、気づきのきっかけになる、そのような場で三友庵はありたいと、願わずにはいられません。

立花大亀老師は、お茶の味と人生の味を重ねて、次のように語っておられます。

「濃茶はほろ苦きもの。しかしそれは、ただほろ苦いだけではない。その中には言うに言われぬ甘さがある。人生もまた然りである」

茶味を知るということは、自らの人生の味わい、人間味を知ることでもあるのでしょう。
日々の稽古を通して、自分という人間の在りように気づき、少しずつその味を深めていくこと、それこそが、稽古の本質ではないかと思います。

お茶は、冷たすぎても、ぬるすぎても美味しくありません。
火相や湯相を整えることも大切ですが、それ以上に大切なのは、点てる人の心の在り方です。
暑い日には涼を、寒い日には温もりをと念じ、ただ「美味しい一椀を差し上げたい」という思いから、すべての準備が生まれてきます。

私たちは皆、仏心を宿しています。
茶道の修行を通して、そのことに気づいていく、それが茶道の中で最も大切なことではないでしょうか。

堀内宗心宗匠は、薄茶平点前について、次のように語っておられます。

「薄茶平点前が『人』をつくる」

一椀のお茶は、亭主と客が同じ空間に身を置き、亭主自身の手によって点てられるものです。
その場の雰囲気をつくり出すのは、ほかならぬ「人」であり、その「人」を育てるのが、日々の稽古なのだと思います。

永遠の命というものはありません。
日々は新たになり、人も花も、同じ姿のままではいられません。
しかし、その移ろいの中で、この一刹那を精一杯に生きることこそが、命を生かすということなのでしょう。

お茶が十分にできたと思っても、なお同じことを繰り返し続けていく、そこにこそ、稽古の要があり、茶人の進むべき道なのであります。

茶道とは仏道であると祖師方より古から言い伝えられています。
この言葉の意味を、日々の稽古の中で、皆さんとご一緒に静かに確かめ続けていきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました

茶僧 宗芯清竜